スティーブ・ジョブズ氏のスピーチを記事にして以降、以前好きだったスピーチをYouTubeで見返していたら、改めて面白いと感じるものを発見したので紹介させて頂きます。

企業経営者ではありません。有名な「ハリーポッター」シリーズを書いた小説家、J・K・ローリング氏です。世界で最も売れた小説家といっていいのではないでしょうか。
私自身はハリーポッターシリーズは読んでおらず、印象に残っているのは、今回紹介するスピーチの方です。彼女が2008年にハーバード大学で行った卒業スピーチで、当時もいいこと言うなと思って聞いていましたが、10年経った今改めて聞いてみると、まるで今の時代を予想していたかのような内容になっていて驚きました。

どんな分野であれ、超一流というのはやっぱり違うなと、改めて思うのであります。
以下、概要を紹介させて頂きますが、日本語字幕付きの動画もあるので、ご興味のある方は是非ご覧になってみて下さい。

失敗の恩恵

若い頃のローリング氏は、「自らの野心」と「身近な人々からの期待」との間で、難しいバランスを強いられていました。彼女には、小説を書くことこそが自らの道だという確信がありましたが、貧しかった両親から反対されていたそうです。
さらに、彼女はこうも振り返ります。若い頃の自分が最も恐れていたのは”貧しさ”ではなく”失敗”だったと。そして試験をパスするコツを覚えること、これが”成功”の尺度になっていくのです。
しかし、卒業して7年が経った時、最大の恐怖が現実のものとなります。彼女はあらゆる面で大失敗していました。短い結婚生活は破綻し、仕事はなく、シングルマザー。現代イギリスで考えられる最低の貧しさでした。そして、彼女は学生にこう問いかけます。

私は失敗が楽しいというつもりはありません。
では、なぜ失敗の恩恵について話すのか?

それは、失敗が不必要なものを剥ぎ取ってしまうからです。私はようやく自分以外の誰かのフリをすることをやめ、自身にとって唯一重要な仕事に全力投球することにしました。もし、他の何かで成功していたら、自分自身が本当に大事だと思っている分野で成功しよう、そんな決意を持てなかったかもしれない。私は自由になったのです…
(原文:Simply because failure meant a stripping away of the inessential. I stopped pretending to myself that I was anything other than what I was, and began to direct all my energy into finishing the only work that mattered to me. Had I really succeeded at anything else, I might never have found the determination to succeed in the one arena I believed I truly belonged. I was set free, …)

皆さんは私ほど失敗しないかもしれない。でも、人生においていくつか失敗することは避けられません。もう生きてないのと同じ、というくらい慎重に人生を過ごせば避けられるかもしれませんが、そんな生き方はそもそも失敗です。
(原文:You might never fail on the scale I did, but some failure in life is inevitable. It is impossible to live without failing at something, unless you live so cautiously that you might as well not have lived at all – in which case, you fail by default.

失敗から這い上がり、賢く、強くなったと気付いた時、自分には生き残る力が備わっているという安心が生まれます。自分自身のこと、人との絆の強さ、本当のところは逆境に試されるまで決して分からないでしょう。このような知識は全て苦しんで勝ち取ったものでしたが、本当の宝物となり、どんな資格よりも価値がありました。
(原文:The knowledge that you have emerged wiser and stronger from setbacks means that you are, ever after, secure in your ability to survive. You will never truly know yourself, or the strength of your relationships, until both have been tested by adversity. Such knowledge is a true gift, for all that it is painfully won, and it has been worth more than any qualification I ever earned.

想像力の重要性

次に、ローリング氏は想像力について語ります。

彼女は20台前半、アムネスティ・インターナショナル本部のアフリカ調査部で働いていました。彼女がここで目にしたものは、アフリカの独裁政権下で起きていることを外に知らせるべく、人々が書いた手紙でした。跡形もなく消された人々の写真、拷問の犠牲者による証言や傷の写真、誘拐やレイプの略式裁判や処刑に関する証言…。民主主義国家に生まれた幸運を思い知ると共に、人間が自らの権力を獲得、維持するために、他の人間に容赦なく働く悪事を毎日見ていたそうです。
と同時に、人間の良心も知りました。アムネスティ・インターナショナルは、見知らぬ人々、これからも決して会うことのないであろう人々を救うために、ごく普通の人々が集まる場所でもあったのですから。

この地球上で人間だけは、他の生物と違って、経験せずに学んだり理解することができます。他人の立場で考えることができるのです。これは1つの能力であり、ハリーポッターの小説に出てくる魔法と同様、良くも悪くも使えます。
(原文:Unlike any other creature on this planet, humans can learn and understand, without having experienced. They can think themselves into other people’s places. Of course, this is a power, like my brand of fictional magic, that is morally neutral.

人を理解し共感するだけでなく、他人を操りコントロールするために使う人もいるかもしれません。又、想像力を全く使おうとしない人も大勢います。知ることは拒否できるのです。そして、他人と共感しようと思わない人々は、真のモンスターを生み出します。無関心を通じて、悪と結託するのです。彼女は学生にまた問いかけます。

我々はただ存在するだけで、他人の人生に触れてしまいます。ハーバード大卒業生の皆さんは、他人の人生にさらにどれくらい触れていくつもりでしょうか?

皆さんの知性、勤勉さ、受けた教育は、皆さんに特別な地位と責任を与えます。国籍でさえも特別です。多くは、世界に唯一残った超大国の国籍をお持ちでしょう。皆さんの投票、生き方、抗議、政府への圧力は国境をも越えるインパクトがあるのです。
もし皆さんが、自らの地位と影響力を声無き人のために行使することを選んだら、力のある者だけでなく力が無い者とも共感することを選んだら、 そして皆さんのようなアドバンテージを持たない人々の人生を想像する能力を持ち続けたら、家族だけでなく、皆さんのおかげで現実が変わった多くの人々から祝福されるようになるでしょう。

世界を変えるのに魔法は必要ありません。必要な全ての能力は、既に私たちの中に備わっています。私たちはより良い世界を想像する力を持っているのです。
(原文:We do not need magic to change the world, we carry all the power we need inside ourselves already: we have the power to imagine better.

人生は物語に似ています。重要なのは、どのくらい長いかではなく、どのくらい良いかです。
(原文:As is a tale, so is life: not how long it is, but how good it is, is what matters.)

実際のスピーチではユーモアたっぷりに話されているので、興味を持った方は字幕付き動画をご覧になってみてください。