前回の投稿で”Stay hungry, Stay foolish”と書いてふと思い立ち、久しぶりにスティーブ・ジョブズの有名なスピーチを読み返していました。
はじめてこのスピーチを読んだ時には「起業家ってのはスゲーな、よくこんな言葉が出てくるもんだな…。」と感動したものですが、当時は起業や独立をまだ先のことと考えていて、どこか他人事だった気がします。しかし、実際に独立した今になって読んでみると、やっぱりいいこと言いますね。私はジョブズの足元にも及ばない超弱小自営業者ですが、共感する内容が多くなってきたような気もします。気のせいかもしれませんが(笑)。

有名なスピーチで、ご存知の方も多いでしょうが、簡単に紹介させて頂きます。
日本語字幕付きの動画もあるので、ご興味のある方はどうぞ。

Connecting the dots: 点と点をつなげる

大学に通って半年、ジョブズは退学を決意します。人生で何がやりたいのか分からず、それを見つける手助けを大学がしてくれるとも思えず、両親が生涯かけて貯めたお金を使い果たすだけの生活が嫌になったからです。当時は怖さも感じたが、人生における最良の決断の一つだった、とジョブズは振り返っています。そして、退学後、興味のない必修科目を受けることをやめ、面白そうな授業にもぐりこむことにしました。こうして、退学後18ヶ月もの間、興味の赴くままに学んだ知識が、後に値段がつけられないほどの価値に変わることになります。

ジョブズはカリグラフィ(字を美しく見せる書法)を例にあげます。科学ではとらえきれない、美しく、伝統的で、芸術的な文字の世界のとりこになりました。当時は人生の役に立つとは考えてもいませんでしたが、その10年後、初代Macを設計していた時にカリグラフィの知識が蘇り、その全てを組み込むことにしたのです。世界で初めて美しいフォントを持ったコンピューターの誕生です。

もしジョブズが大学中退を決意しなければ、カリグラフィの授業にもぐりこむことはなかったし、パソコンに美しいフォントが入ることもなかったかもしれません。もちろん、大学生の時点で、これらの点と点をつなげることは不可能ですが。

Again, you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something ― your gut, destiny, life, karma, whatever. This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.

もう一度言います。将来を見通して、点と点をつなげるなんてことはできない。できるのは、後から振り返ってつなげることだけだ。だから、将来どこかで点がつながると信じなければならない。直感、運命、人生、カルマ、何でもいいから信じるんだ。私はこのやり方で後悔したことはないし、人生に大きな違いをもたらしてくれた。

(ジョブズのスピーチの中で、私が最も好きなフレーズです。法人設立時、”Connecting the dots”を社名にしようかと考えたくらいでして。私もいい歳になってきたので、振り返ると様々なことがつながっていることに気付きます。私の独立、移住、資本市場やインターネットでの新たな活動も、将来必ずやつながって新たな道が開けると信じています。)

Love and loss: 愛と敗北

ジョブズは20歳でアップル社を創業、がむしゃらに働き、10年で4,000人の従業員を抱える20億ドル企業に育てました。しかし、30歳の時、外部から招いた人材との間でビジョンの食い違いが生じ、取締役会とも対立、ジョブズは自分が創業した会社から解雇されてしまいます。人生をかけて築き上げてきたものが消え、さすがにひどく落ち込んだそうです。

しかし、ジョブズはまたもこう振り返ります。当時は分からなかったが、アップル社をクビになったことは人生で最も幸運な出来事だった、と。なぜなら、成功者の重圧が消え、挑戦者としての身軽さが戻ってきて、人生で最も創造的な時期を迎えることができたからです。その後の5年間で、ジョブズはネクストとピクサーという会社を設立、そして後に妻となる素晴らしい女性と恋に落ちました。そして、思いがけないことにネクストはアップルに買収され、ジョブズはアップルに復帰すると共に、素晴らしい家族も手に入れました。

Don’t lose faith. I’m convinced that the only thing that kept me going was that I loved what I did. You’ve got to find what you love. And that is as true for your work as it is for your lovers.

信念を失ってはならない。私がここまで前進し続けることができたのは、ただ自分がやっていることを愛していたからなんだ。皆さんも大好きなことを見つけなければならない。仕事においても、恋愛においても。

(何度か書きましたが、自営独立や起業は何か「やりたいこと」がないと続かないとリアルに感じます。食べるために稼ぐと考えるなら、会社員というのは決して悪くない選択肢です。)

Death: 死

ジョブズは毎朝、鏡に映る自分にこう問いかけていたそうです。
「もし今日が人生最後の日だとしたら、今日これからやろうとしていることをするだろうか?」
この答えがNoという日が何日も続くようなら、何かを変えなければなりません。

Remembering that I’ll be dead soon is the most important tool I’ve ever encountered to help me make the big choices in life.

自分はいずれ死ぬという事実を思い起こすこと、これが人生で大きな決断をする時に最も役に立つんだ。

彼はこう言います。期待やプライド、恥や失敗への恐怖、ほとんど全てのものは、死を前にすれば何の意味もなくなり、本当に大事なことだけが残る。自分の心に従わない理由はない。

ジョブズはこのスピーチの1年前にすい臓がんと診断され、一時は余命半年と宣告されました。精密検査の結果、極めて稀なすい臓がんで手術で治療可能と判明しましたが、彼は死に直面した経験からこんなことを語ります。

誰も死にたくはない。しかし、死を免れた人は誰もいない。これはそうあるべきで、おそらく死というのは生命にとって最高の発明なんだ。古いものを消し去り、新しいものに道を開く、生命を進化させる担い手なんだ。
時間は限られている。誰か他人の人生を生きて時間を無駄にしてはいけない。自分自身の内なる声が、他人の意見に惑わされるようなことはあってはならない。最も大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことだ。

そして、この有名な言葉でスピーチは終わります。

Stay Hungry, Stay Foolish.

前に進み続けろ、常識にとらわれるな。