政府、日銀、そして立派な肩書を持ったエコノミストや学者が口を揃えて「デフレ脱却」を唱え、物価目標などという言葉が新聞やニュースを賑わせていますが、ふと疑問に思うことはありませんか?
デフレとは物価が持続的に下がっていくことを言います。つまり、デフレ脱却は物価が上がることを意味する訳ですが、モノの値段が上がって嬉しい人っているんでしょうか…。
ちなみに、私は嫌です。値段は安い方がいいに決まってます(笑)。

もちろん、デフレ脱却の先に景気回復があるなら話は別です。一般的に、

好景気→物価上昇

は事実です。価格は需要と供給のバランスで決まるので、好景気であれば(需要が旺盛にあれば)モノの値段は上がっていきます。しかし、

物価上昇→好景気

とは限りません。当たり前ですが、逆は必ずしも真ではないのです。

物価上昇→不景気

という可能性も十分にあります。物価上昇と不景気の同時進行はスタグフレーションと呼ばれ、簡単に言えば最悪の事態。実際、今の日本の国内消費の惨憺たる状況は、前回の記事をご覧頂ければ一目瞭然でしょう。政府、日銀は屁理屈をこねて緩やかな景気回復を主張していますが(テレビ、洗濯機、外食に注目すると、そうなるそうです)、どちらが真実に近いか、それはもう読者の皆様のご判断です(笑)。

もう少し話を具体的にしてみましょう。
これからモノの値段が上がっていくことが誰の眼にも明らかになったとします。

「これは早目に消費しておかないとマズイ」

と考える人が多く、財布の紐が緩めば、確かに好景気シナリオは成り立ちます。一方、

「厳しい将来に備えておかないとマズイ」

と考える人が多く、財布の紐がますます固くなると、不景気シナリオです。

さて、どちらが皆さまの実感に近いか、という話なのです。
国内消費がここまで低迷しているのを見れば、答えはもう明らかなんじゃないか、と私は思いますけどね。
今のうちに食べておけば将来食べなくて済むならいいですが、人間そうはいきません。もしくは、皆で缶詰や洋服を山ほど買い込んでおきます?(笑)これだって需要の先食いでしかなく、好景気というイメージからは程遠いですが。政治家や官僚といった方々は、自らが食いっぱぐれることが絶対にないので、こういった想像ができないのかもしれません。しかし、経済は算数とは違います。

いずれにしろ、デフレ脱却/物価上昇の「目的化」は経済政策になっていません。
景気回復を旗印にせず、デフレ脱却のみを声高に連呼する方々は、はっきり言ってズルい。誰も否定できないですが、必ずしもその先に幸せがあるとは限らないのですから。さらに、物価上昇の文脈で増税も円安も全て正当化できてしまいます。そうして日本人の購買力はどんどん失われていく…という訳です。