本日、日銀の金融政策決定会合があり、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」が発表されました。現状維持の場合は大体12:00前後に発表があるんですが、今回は12:30を過ぎても発表がなかったので、何かあるのか…と身構えた投資家は多かったと思います。実際に発表されたのは13:00頃でしたが、サプライズという程の内容はありませんでした。ただ、少しずつ日銀の姿勢が変化していると見ることもできるため、内容をまとめておきます。

1. 国債や株式の買入れ額の変動を容認

日銀の発表内容はこちらにありますが、一部抜粋します。

10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。

長期国債以外の資産については、こう書かれています。

ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。

つまり、今後日銀による国債や株式の買入れ額に、裁量が加えられることになります。より大量に買入れが行われる可能性もあれば、逆に買入れが抑えられる可能性もあります。タイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」となっていますが、これをそのまま受け取る方はむしろ小数でしょう。日銀の姿勢が変化しているのではないか…と私自身も感じており、ブレーキを踏み始めたと考えることも可能な内容です。
日銀の本音に迫ることはそれ程難しくありません。今後の日銀の買入れを丁寧に追いかけていけばいいのですから。私はやってみようかと思っています。

2. マイナス金利が適用される政策金利残高の減少

金融機関が日銀に余剰資金を預ける際の預金口座は日銀当座預金と呼ばれます。この日銀当座預金、マイナス金利政策を実行する際に3つに分けられました(詳細は以前書いたマイナス金利という記事をご覧下さい)。

  • ①基礎残高(通常の金利)
  • ②マクロ加算残高(金利は0%)
  • ③政策金利残高(マイナス金利)

今回の発表で、②マクロ加算残高を増やし、③政策金利残高を10兆円程度から5兆円程度に半減することになりました。これは、マイナス金利によって生じた”金融機関の収益悪化”という弊害を日銀が認め、修正を図ったことに他なりません。これも、”ブレーキ”を感じさせる内容です。

3. ETF買入れ対象を日経225からTOPIXメインに

詳細な内容はこちら。私のような指数オタクからすれば当然の措置でして、むしろよくこれまで日経225のような欠陥の多い指数に投資してきたな…というのが正直な感想です。最近、

  • 株価の大きな銘柄(日経225への寄与度大)は売られ、
  • 時価総額の大きな銘柄(TOPIXへの寄与度大)は買われる

という傾向があったので、事前に本内容を予想していた投資家も多かったと思われます。

9983ファーストリテイリング(日経225への寄与度大)

20180731_9983ファーストリテイリング

8306三菱UFJフィナンシャル・グループ(TOPIXへの寄与度大)

20180731_8306三菱UFJフィナンシャル・グループ

さらに、日経225とTOPIXの本日の日中足も掲載しておきます。

日経225

20180731_NK225

TOPIX

20180731_TOPIX

これから日銀が大量に買入れを行うはずのTOPIXですが、どちらかというと軟調な動きに終始しています。市場関係者は、額面通りに「金融緩和の枠組みが強化された」とは必ずしも受け取っていないことがお分かり頂けるのではないでしょうか?

日銀による意味のない金融緩和

このブログの読者には繰り返しになってしまいますが、日銀による金融緩和は株価を上昇させましたが、実体経済には何のメリットもありませんでした。これはもはや私の「予想」などではなく、既に数字を追いかけさえすれば誰の眼にも明らかな「事実」です(詳細はこちら)。

以前マイナス金利を解説した記事で、私はこんなことを書いています。

金融緩和とは上流(供給サイド)に対する政策で、銀行が資金調達に苦労するような事態には有効です。リーマンショック直後の米国、そして昨今の欧州には有効な施策と言えます。しかし、日本は状況が全く異なります。金融機関は資金調達に困るどころか、余剰資金をこれだけ日銀に豚積みしているのが現状です。
景気対策とは下流(需要サイド)に対する政策でなくてはなりません。人口減少への歯止め、消費増税の撤回など、その責任は日銀ではなく政府にあります。

金融危機に見舞われたあの米国でさえ既にExit路線を明確にし、順調にバランスシートを縮小させている中、そもそも金融危機でもない日本がなぜ金融緩和などという上流施策を実行しているのでしょうか?
ドーピングによって株価だけ上げても意味はありません。むしろ、それは資本市場の価格調整力を破壊する行為ですし、私自身も株式投資をしている身ではありますが、

  • 日銀のバランスシートに積み上がる株式
  • 市中にあふれる「稼げない資金」

を見ていると、賛成する気には一切なれません。
私にはよく分かりませんが、それでも政治的には肯定されるのでしょうか?
中国共産党もビックリの政策だと思いますけどね(笑)。

いずれにしろ、この壮大な社会実験が最終的にどう着地するのか、しっかり見届けようと思います。