先週、日銀がマイナス金利の導入を決定しました。驚きの一言ですが、日銀のリリースを確認すると金融機関への配慮も見られ、マスメディアの報道はミスリーディングなものが多いように感じます。まずは事実確認から。

日銀のマイナス金利スキーム

昨日も書きましたが、上記リリースには「日銀当座預金を3階層に分けて金利を変える」と明記してあります。既に金融機関が日銀に積み上げた預金(約230兆円)は基礎残高と位置付けられ、これまで通り+0.1%の金利が付きます。つまり、金融機関が現状の預金に対していきなりペナルティ(マイナス金利)を払う訳ではありません。そういう意味では金融機関の収益悪化と騒ぎ過ぎるのはいかがなものかと思います。

さらに基礎残高に加えてマクロ加算残高が設定されており、この部分に対する金利は0%。いわばクッションと言えるでしょう。そして、基礎残高とマクロ加算残高を上回って預金した場合、その上回り分が政策金利残高となり、-0.1%のマイナス金利がかかる、というのが事実です。

日銀当座預金とは

金融機関というのは本来民間企業のビジネスに対して融資を行い、金利を稼ぐというのが主な役割です。ところが、融資先が見つからないと、余剰資金を日本銀行に預けたり(「豚積み」と呼ばれます)国債購入に当てたりして、わずかな金利で儲けようとします。金融機関が日本銀行にお金を預ける際の預金口座、これが日銀当座預金です。

「金融機関がビジネスに融資しないなんてけしからん」という意見は半ば当たっています。豚積みや国債で金利を稼ぐなど誰にでもできる運用で、プロの金融マンというイメージからはほど遠いです。マイナス金利というのは、豚積みばかりしている金融機関にペナルティを課す訳です。「日銀に預けてないで融資せよ」ということですね。

金融緩和は景気対策にはつながらない

さて、金融機関はこれ以上多くのお金を日銀に預けてもペナルティを課されることになってしまいました。これで金融機関が融資先を見つける努力をし、民間企業に資金が回って設備投資が行われ、経済が活性化すればめでたしめでたしです。が、そうはならないのですよ。

民間企業は、市場にビジネスチャンスがあるから投資を決断するのであって、金利が安いから投資を決断する訳ではありません。足元の日本経済が人口減少や消費増税によって悪化するのが分かっている中、いくら金利の安い資金があったところで投資なんて考えられないというのが実態です。逆に、大きなビジネスチャンスが見えているなら、高い金利であっても勝負する経営者は出てきます。そして、金融機関もこのことをよく分かっています。手元に余剰資金があるからといって質の低い融資に手を出すということにはならないでしょう。

金融緩和で上流からいくらお金を流そうが、下流側で資金の需要がなければ、浮いたお金は金融機関に貯まるだけ。黒田バズーカなどと騒がれていますが、これが実態です。残念ながら全く景気浮上にはつながっていません。そもそも金融緩和で景気対策なんてできるはずないのですから。
金融緩和とは上流(供給サイド)に対する政策で、銀行が資金調達に苦労するような事態には有効です。リーマンショック直後の米国、そして昨今の欧州には有効な施策と言えます。しかし、日本は状況が全く異なります。金融機関は資金調達に困るどころか、余剰資金をこれだけ日銀に豚積みしているのが現状です。
景気対策とは下流(需要サイド)に対する政策でなくてはなりません。人口減少への歯止め、消費増税の撤回など、その責任は日銀ではなく政府にあります。

日本経済はマイナス金利という未知の領域に突入しました。マイナス金利というペナルティを導入されても、民間投資が増えない限り、金融機関は融資を増やさないと思います。余剰資金は0.1%の手数料を払っても豚積みするか、国債を買うか、ではないでしょうか。国債市場を見ると、そう考えるのは私だけではないようです。